天台寺の歴史
- 1. 歴史ある古刹「天台寺」
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天台寺は、神亀5年(728)の開山とされる天台宗の寺院です。
新しい寺の候補地を捜すよう聖武天皇から命じられた僧・行基が、八峯八谿(8つの峰と8つの谷)を持つこの山を八葉山(はちようざん)と名付け、桂の木を用いて観音菩薩像を彫り、天皇自らが記した天台寺という額を掲げて開いたと伝えられています。
その真偽の程は定かではありませんが、仏像の制作年代等からすると遅くとも平安時代後期、11世紀から12世紀の頃には創建されていたとみて間違いないようです。
「御山(おやま)の観音」、あるいは桂の木の根元から湧き出ている泉にちなんで「桂泉(けいせん)観音」とも呼ばれた天台寺は、古代最北の仏教文化の地として人々の信仰を集めました。
江戸時代、領主である南部氏からも厚い保護を受け、現在の本堂も万治元年(1658)、盛岡藩主・南部重直公によって建立されたものです。
- 2. 荒廃と復旧
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しかし明治時代、廃仏毀釈による仏像の破壊や、代々住職を務めてきた家系が途絶えたことなどにより、天台寺は徐々に荒廃が進みました。
追い打ちをかけたのが戦後に起きた杉伐採事件です。
境内には樹齢百年を超えるような杉の大木が千本以上も存在しましたが、そのほとんどが伐採、売却されてしまったのです。
丸裸同然となった境内からは荘厳さが失われ、参拝者の足も遠のき、石段は壊れ草は伸び放題という無残な荒れ寺と化しました。
そんな状況に心を痛めた地元住民らの間で、昭和40年代後半から天台寺復興へ向けた機運が高まります。
保存会が結成され、報道機関も寺の歴史と現状を取り上げ、学術的な研究や植林活動が始まりました。昭和51年(1976)には著名な作家でもある今東光師の住職就任で注目を集めます。
- 3. 名誉住職 瀬戸内寂聴師の尽力
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そして天台寺の名を一躍広めたのが、昭和62年(1987)に住職に就任した瀬戸内寂聴師です。
今師の弟子で同じく作家の瀬戸内師は、軽妙な語り口で人気を博しており、その法話を聞こうと全国各地から人々が訪れるようになりました。
境内や周辺道路の整備が進み、比叡山延暦寺からは不滅の法灯の分灯を受けました。奉納された石仏が随所に立ち、瀬戸内師の提案で植えられたアジサイが夏には美しく咲き誇ります。
- 4. 本堂、仁王門の保存修理工事
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平成25年(2013)から令和2年(2020)にかけて、本堂と仁王門の大規模な保存修理工事も行われました。
天台寺は由緒ある寺としての姿を取り戻したのです。
主な文化財
天台寺には仏像や奉納されたものなど多くの貴重な品々が存在し、うち2点が国指定重要文化財、11点が岩手県指定文化財です。その一部を紹介します。
- ◆本堂・仁王門
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【国指定重要文化財】
- 本堂…(附:棟札、造営文書)
入母屋造、銅板葺きの密教仏堂。万治元年(1658年)、盛岡藩2代藩主南部重直によって造営されたとされています。
- 仁王門…
本堂と同時期の明暦3年(1657年)に造営。
- ◆聖観音立像
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【国指定重要文化財】
高さ116.5cm、桂材、一木造
天台寺の本尊。開山に際して行基が、山中の桂の木を一刀三礼(一彫りするごとに3回礼拝する)にて彫ったとの伝承が残ります。
前面にはあえてノミの彫り跡を残す鉈彫(なたぼり)という技法が用いられていますが、背面は滑らかな仕上げです。
平安中期、11世紀頃の作と推定されています。
現在は本堂裏の収蔵庫内に安置し、本堂内には複製像を納めています。
- ◆十一面観音立像
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【国指定重要文化財】
高さ174cm、桂材、一木造
大きさや鉈彫の有無という違いはあるものの、全体の形や顔立ちが聖観音立像と非常に似ているため、同じ仏師が同時期に彫ったものと考えられています。
こちらの像も収蔵庫内に安置されています。
- ◆銅鰐口
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【岩手県指定文化財】
面径52.5cm 青銅製
正平18年(1363)、源信行による奉納を示す銘が刻まれています。正平は南北朝時代に南朝で用いられた年号で、18年は北朝の年号でいえば貞治2年に当たります。
「天台寺」の名が確認できる最古の資料であり、この地方を治めていた南部氏との関係を考察する上でも貴重な品です。
- ◆長胴太鼓
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【岩手県指定文化財】
面径74.5~76cm、胴長80cm
残念ながら造立年を示す箇所は削られてしまっていますが、元中9年(1392)に修理を行ったとの銘が刻まれた、国内屈指の古さを誇る長胴太鼓です。
- ◆漆絵立花図
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【岩手県指定文化財】
縦181cm、横126.5cm ケヤキ材
正徳6年(1716)、盛岡の商家の父子が絵師に頼んで描かせ、奉納したものと思われます。
色漆で松や梅が華麗に描かれています。
- ◆紙本墨書 天台寺本堂再興勧進帳
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【岩手県指定有形文化財】※R5年4月新規登録
縦27cm、横およそ3m
真言宗の榮澄(えいちょう)が本堂修理の必要性を訴えて寄付を募るために、1577年(天正5年)に書いたとされる書物です。
年中行事
- 1月中旬 どんと焼き
正月飾りのしめ縄や門松、あるいは旧年のお守りなどを焚く、小正月の火祭りです。
- 5月5日 春の例大祭
花まつりや神楽奉納などが行われます。
- 7月 あじさい祭り
6月中旬頃から8月下旬まで楽しめる、天台寺のあじさい。
それにちなんだ俳句や写真のコンテストなどが開催されます。
- 10月第一日曜日 秋の例大祭
神楽奉納やゲストをお招きしての法話などを行います。
- 毎月18日、28日 護摩供(ごまく)
住職による加持祈祷。
諸事情により日程が変更になる場合があります。御希望の方は事前にお問い合わせ・お申し込みください(電話 0195-38-2500)。
糠部・奥州三十三観音
人々を救うため観音様は33の姿を持つといわれています。
それにちなんで、33の札所を巡る三十三観音巡礼というものが昔から各地で行われてきました。
現在の岩手県北部から青森県南東部にかけての糠部(ぬかのぶ)三十三観音巡礼、岩手県、宮城県、福島県にかけての奥州三十三観音巡礼の双方で、天台寺は参り納めの第33番札所に数えられています。
機会がありましたら是非巡ってみてください。
- ◆糠部三十三観音札所
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1 | 寺下観音 | 青森県階上町 |
2 | 清水寺観音 | 青森県八戸市 |
3 | 岡田観音 | 青森県八戸市 |
4 | 島守観音 | 青森県八戸市 |
5 | 白浜観音 | 青森県八戸市 |
6 | 白銀浜清水観音 | 青森県八戸市 |
7 | 岩淵観音 | 青森県八戸市 |
8 | 浄生寺観音 | 青森県八戸市 |
9 | 大慈寺観音 | 青森県八戸市 |
10 | 横枕観音 | 青森県八戸市 |
11 | 南宗寺観音 | 青森県八戸市 |
12 | 根城隅ノ観音 | 青森県八戸市 |
13 | 坂牛観音 | 青森県八戸市 |
14 | 八幡櫛引郷観音 | 青森県八戸市 |
15 | 七崎観音 | 青森県八戸市 |
16 | 斗賀観音 | 青森県南部町 |
17 | 相内観音 | 青森県南部町 |
18 | 作和外手洗観音 | 青森県南部町 |
19 | 法光寺観音 | 青森県南部町 |
20 | 矢立観音 | 青森県南部町 |
21 | 野瀬観音 | 青森県三戸町 |
22 | 長谷観音 | 青森県南部町 |
23 | 早稲田観音 | 青森県南部町 |
24 | 隅ノ観音 | 青森県南部町 |
25 | 梧真寺観音 | 青森県三戸町 |
26 | 清水寺観音 | 青森県田子町 |
27 | 釜淵観音 | 青森県田子町 |
28 | 岩谷観音 | 岩手県二戸市 |
29 | 鳥越観音 | 岩手県一戸町 |
30 | 朝日観音 | 岩手県二戸市 |
31 | 観音林観音 | 岩手県軽米町 |
32 | 実相寺観音 | 岩手県一戸町 |
33 | 桂泉観音 | 岩手県二戸市 |
- ◆奥州三十三観音札所
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1 | 那智山紹楽寺 | 宮城県名取市 |
2 | 天苗山秀麓齋 | 宮城県名取市 |
3 | 桑島山金剛寺 | 宮城県名取市 |
4 | 安狐山斗蔵寺 | 宮城県角田市 |
5 | 名取千手観音堂 | 宮城県名取市 |
6 | 青龍山瑞巌寺 | 宮城県松島町 |
7 | 富春山大仰寺 | 宮城県松島町 |
8 | 両峰山梅渓寺 | 宮城県石巻市 |
9 | 無夷山崑峯寺 | 宮城県涌谷町 |
10 | 大嶽山興福寺 | 宮城県登米市 |
11 | 香積山天王寺 | 福島県福島市 |
12 | 大非山観音寺 | 福島県桑折町 |
13 | 明王山大聖寺 | 福島県桑折町 |
14 | 法輪山大慈寺 | 宮城県登米市 |
15 | 竹峯山華足寺 | 宮城県登米市 |
16 | 音羽山清水寺 | 宮城県栗原市 |
17 | 竜雲山大祥寺 | 岩手県一関市 |
18 | 松沢山六角堂 | 岩手県一関市 |
19 | 新山観音堂 | 岩手県一関市 |
20 | 中興山徳寿院 | 岩手県一関市 |
21 | 円通山観音寺 | 宮城県栗原市 |
22 | 楽峰山勝大寺 | 宮城県栗原市 |
23 | 大白山長承寺 | 宮城県登米市 |
24 | 遮那山長谷寺 | 宮城県登米市 |
25 | 妙見山黒石寺 | 岩手県奥州市 |
26 | 亀峰山長泉寺 | 岩手県一関市 |
27 | 東光山観福寺 | 岩手県一関市 |
28 | 大善院蛸浦観音 | 岩手県大船渡市 |
29 | 海岸山普門寺 | 岩手県陸前高田市 |
30 | 白華山補陀寺 | 宮城県気仙沼市 |
31 | 江峰山聖福寺 | 岩手県八幡平市 |
32 | 北上山正覚院 | 岩手県岩手町 |
33 | 八葉山天台寺 | 岩手県二戸市 |
特別 | 関山中尊寺 | 岩手県平泉町 |
特別 | 医王山毛越寺 | 岩手県平泉町 |
特別 | 瑠璃光山医王寺 | 福島県福島市 |
保存修理工事について
天台寺は本堂および仁王門は、平成25年(2013年)より保存修理が行われました。
令和2年3月に完了し、まさに「平成の大修理」というべき事業でした。
内容についてこちらにまとめてございますのでぜひご覧ください。